懺 悔 記

虎になりたくない、三十路目前女子のブログ。

感想『彼女は安楽死を選んだ』

神経難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性に対する嘱託殺人容疑で医師2人が逮捕された事件。
女性は、昨年6月に報道されたNHKスペシャル『彼女は安楽死を選んだ』を観て、死の選択への思いを強めていったと、女性の主治医が明かした。

 


彼女は安楽死を選んだ

 

私もこの番組を見た。
「多系統萎縮症」という難病を発症した小島ミナさんという女性が、スイスにわたり、自殺幇助団体の手を借りて、その生涯を終えるという内容だった。
あまり先入観を持たずに視聴したにも関わらず、番組の構成に違和感をおぼえたことを記憶している。

番組を見た後に感じたのは、「ほんとうにこれでよかったのか」というやりきれなさだった。あまりにもあっけなかった。

安楽死を選んだミナさんの意思はもちろん尊重するが、番組制作側が、その選択をするに至った彼女の苦悩を表面的にしか理解できていなかったように思う。
もしくは、理解していたけれども、プライバシー等の問題で、放送することができなかったか…。

いずれにせよ、選択に至るまでの苦悩を描ききれないのであれば、安楽死問題についての番組を作る意義がなくなる。
安楽死問題を語るとき、もっとも目を向けるべきは、その決断に至る前までの本人や周囲の葛藤ではないだろうか。決断した後だけに目を向けると、「How to 安楽死」番組になる。
Howの以前にある、Whyを語らなければ、安楽死という決断そのものが軽く見えてしまうし、安楽死を選べば救われるのではないかという誤解を与えてしまう。

安楽死は、その行為だけを見ると、計画的自殺と言い換えられると思うが、その根底にあるのは、その人が「どう生きたいか」という問題である。
安楽死を選ぶとき、「○○だから死にたい」と、死ぬ理由づけをするが、裏を返せば、「○○でさえなければ生きたい」ということである。

安楽死を選ぶ人は、徹底的に「生きる」ことを考えている人ではないかと思う。
しかし、この番組は「死」の側面を強調しすぎていて、生きることに向き合ったであろうミナさんとその家族を描ききれていなかった。
少なくとも私は、ミナさんに対して、生と向き合った末に安楽死を選んだ人というより、死に急いでいる人という印象を強く受けてしまった。


人生の最後、その1分1秒が、ミナさんにとって貴重なものであっただろう。
にもかかわらず、テレビの取材を受け入れたミナさんとその家族。
最後の瞬間まで、撮影クルーが同席していて、十分なお別れができたのだろうかと、いらぬ心配をしてしまう。
「ありがとね」「わたし、しあわせだったよ」というミナさんの最後の言葉は、はっきり再生できるほど記憶に残っている。

 

しかし、この番組が、これだけ貴重な機会を命懸けで提供してくれたミナさんに捧げるに足りるか?懐疑的である。
そもそも、これほど繊細で複合的問題を孕んでいるテーマを、1時間内におさめようとしたことに無理があると思う。

製作中に、その限界に気づいてほしかった。

いろいろと、考えさせられることが多い番組ではあった。
たとえば、スイス自殺幇助団体の医師が「もしミナさんに移動の困難がなければ(日本という遠方に住んでいなければ)、このタイミングでの安楽死は勧めなかった」と言ったシーン。
ミナさんは、病状が進行し、スイスに渡航できなくなることを非常に恐れていた。もし日本国内に同様の施設があり、安楽死制度が認可されていた場合、ミナさんはもう少し穏やかに、余生を生きることができたのではないだろうか。
また、日本では「安楽死」が認められていないため、遺体を持ち帰れないことについて。ミナさんの遺体は、現地で火葬され、遺骨はスイスの川に撒かれた。無言の帰国すら許されないのである。お骨になった後でも故郷に戻れないなど、私には耐えられない。

私は安楽死制度について、賛成反対いずれの立場も取りかねている。
安楽死制度という保険があることによって、生をまっとうできる人もいるだろう。その一方で、安楽死制度の「耐え難い苦痛」の適用範囲の拡大―—いわゆるすべり坂問題や、優性思想につながることへの懸念、周囲の意見に左右されやすい性質を持った日本人が主体的に安楽死を選べるのかというそもそも論があることもわかる。
結局その答えは、自分が当事者になったときにしかつかみ取れないだろうし、正解はない。自分が自分の選択に納得がいくかどうかがすべてだから、他者がどうこう評価するものでもない。
当事者になったとき、自分を取り巻く人間関係も、その選択に大いに影響を与えるはずである。

京都の事件に話を戻す。
主治医でもない医師が、あろうことか報酬をもらって、依頼者の自殺幇助をしたことで、日本の安楽死についての議論がますます進まなくなるだろうなと思う。
こんなもん、安楽死以前の問題である。そこそこの報酬をもらっている時点で、逮捕された医師に大した信念はないと思うけど。


さて、深く当事者に迫ったNHKの作品でお勧めしたいのが『ある少女の選択~18歳いのちのメール~』だ。


「ある少女の選択~18歳“いのち”のメール~」 2011 07 22 2

 

この子の決断と、苦しみの中でも両親を思いやるやさしさ、

私一生かけても、こうはなれないなと思った。

 

 

・・・一昨日の日記との落差よ。

そうです、情緒不安定です。