懺 悔 記

虎になりたくない、三十路目前女子のブログ。

小桑さんと滋賀ドライブ

夏休みに入った。

予定のない長期休暇ほど、人の心を追い詰めるものはない。

 

仕事に行っていたときは、あれだけ休みたい休みたいと念仏のように唱えていたのに、休みが来たらこの調子である。

なんて我儘なのだろうかと自省していたところ、似たような人がいた。小桑さんである。

 

「とりあえず、緑が見たい」という点において意気投合した我々は、急遽ドライブに行くことにした。

「とりあえず、明日の朝7時半にリビング集合ね」と、行先も決めずに就寝した前日。

「とりあえず、朝ご飯のパン買いに行こう」とゴッホに行く当日朝。

「とりあえず、車に乗ろう」と、パンを抱え乗車したのち、「こんなに行先が決まらないとは思わなかった」と焦りだす。

無計画の極みである。

そして「とりあえず、滋賀行こうか!」と、計画性のないドライブが幕を開けた。

 

滋賀までの道中、『聖なるズー』という本についての感想を述べあった。

ズーフィリアという、動物を性の対象とする人々と作者の交流を描いた本作は、そのセンセーショナルな題材や、開高健賞を受賞したことで、最近話題となっていた。

しかし、過激な題材とは裏腹に、書かれているのは「性愛の対象とするパートナーとどのように関係を築きますか?」という、すべての人間に対する問いかけであった。

 

対等な関係とは何か、愛とは何か、高速を飛ばしながら我々は語り合った。

話はそのうち、日本のAV業界に対する怒りに変わり、元カレの話に変わる。

10年近く付き合っていた元カレが、別れたあとすぐにほかの人と付き合ったことに対して、小桑さんはかなりのトラウマを抱えていた。

小桑さんは「もうめっちゃ嫌や」「かなしいわ」と、悲鳴に近い声で、元カレとの思い出を語る。彼女が感情の波にのまれているとき、語彙力が著しく低下することが分かるようになってきた。

 

かくして近江八幡に到着した我々であったが、元カレとの思い出話で情緒不安定となった小桑さんをなだめるべく、とりあえず、たばこタイムである。

一服して落ち着いた小桑さんとともに観光先を探したところ、クラブハリエの「ラコリーナ近江八幡」なる施設が、この付近で有名と知り、車を走らせた。

が、なんとも微妙な施設であった。緑に包まれた外観が有名なようだが、内部の庭には、「なにこれ雑草?」みたいな草が、生い茂っている。手入れされた気配が微塵もない。

クラブハリエといえば、バウムクーヘン。とりあえずバウムクーヘンをひと切れ購入し、コロナ対策のため、屋外の暑いベンチで、もそもそ食す。ただでさえ甘い生地を、砂糖でコーティングしたそれは、異様に甘かった。

「楽しみ方がわからない」という苦情とともに施設を後にした我々は、八幡山へ向かう。

 

八幡山は、市街地のすぐ北側にある標高271.9mの山で、山頂にはかの豊臣秀次が築いた城跡がある。ロープウェイで山頂まで登り、約1時間の別行動をとった。

山頂に黒猫を見つけ、テンション爆上げでもふもふするとら子。

小桑さんは、木陰のベンチで読書を始めたが、すぐに集中力が切れて、立ち上がってみたり、スマホヘアアイロンを調べたりしていた。

この旅程は省略してもよかったかもしれない。

そもそも、山頂でやらなくてもよいことばかりである。

 

さて、昼食を求めて、琵琶湖周辺に車を走らせる。

人生で初めて見た琵琶湖。それはとても広大で、きらきらと水面が輝いていた。

とら子は何度も、「これは海や!」と主張した。小桑さんはその都度、「湖やよ」と訂正した。

琵琶湖のほとりにある有名なカフェは、観光客でごった返しており、並んでいる間にコロナに感染しそうだったため、断念。

その後、30分近くさまよい続け、空腹で小桑さんが泣き出しそうになったころ、ようやく一軒のカフェを見つけ、食事にありつけた。

 

腹がふくれた後は、琵琶湖のほとりに立つ寺を訪れた。なんでも浮御堂が有名らしい。

浮御堂に立って琵琶湖を見渡す。

最初こそ、その景観に感動したものの、強風にあおられた髪が顔を激しく叩き、感動に水を差された形となる。心が穏やかになるのに比例して、暴れる髪。

アンビバレントな感情を抱きながら、我々は浮御堂を後にした。

 

その後、プチ渋滞に巻き込まれながら、帰路につく。

車内は、次の海外旅行はどこ行きたい?というお題で盛り上がった。

 

帰宅後、リビングにいた志村さんに「ドライブどうやった?」と聞かれるも、うまく説明できない二人。

 

無計画な旅は、旅の思い出を人に伝えづらくなるようである。